東京高等裁判所 昭和57年(ネ)988号 判決 1982年12月20日
主文
一 原判決を次のとおり変更する。
控訴人は、被控訴人らそれぞれに対し、金六六一万五九四三円及びこれに対する昭和五六年二月三日以降完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。
控訴人らのその余の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを二分し、その一を控訴人の、その余を被控訴人らの負担とする。
三 この判決第一項中被控訴人ら勝訴の部分は、仮に執行することができる。
事実
控訴代理人は、「原判決は控訴人勝訴の部分を除きこれを取り消す。右取消し部分につき、被控訴人らの請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人らの負担とする。」との判決を求め、被控訴人ら代理人は、控訴棄却の判決を求めた。当事者双方の事実上の主張並びに証拠の提出、援用及び認否は原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。
理由
一 当裁判所は、控訴人らの請求は、各自六六一万五九四三円及びこれに対する昭和五六年二月三日以降支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次に改めるほかは原判決理由説示と同一であるから、これを引用する。
1 原判決五枚目裏八行目から同六枚目裏一〇行目までを次のように改める。
亡美由紀が死亡当時一四歳の女子であつたことは当事者間に争いがなく、原審における被控訴人安藤正子本人尋問の結果によると、亡美由紀は、死亡当時中学二年に在学中で学業成績も良く、将来学校教師になる希望を有していたこと、姉も大学に進学することが決まつており、亡美由紀が大学に進学するのであれば東京都内で医師をしている祖父の援助を得られる事情にあつたことの各事実が認められる。
しかしながら、右事実をもつてしては、中学二年在学中の女子であつた亡美由紀が、将来大学に進学して卒業し、これに相応した職に就くことが確かな事実であるとまで推認することは困難であり、他にこれを認めるに足りる証拠はない。
亡美由紀の得べかりし利益を算定するに当たつては、亡美由紀が、現在社会通念上標準的学業とみられる新制高等学校の課程を経た後、満一八歳から満六七歳までの四九年間、いわゆるパートタイム労働ではなく専業として職に就き、その間平均的額の給与を得るとともに、適時に婚姻するものとして、現時点において得られる資料によつて算定するのが相当である。そこで、受けるべき給与の額については、賃金センサス昭和五六年第一巻第一表中の女子労働者、旧中・新高卒、企業規模計(パートタイム労働者を除いたもの)中「きまつて支給する現金給与額」及び「年間賞与その他特別給与額」により、生活費については、女子は、職に就いた場合であつても、一般に主婦として家事の主要部分を分担する反面、生活費の負担は比較的低いものと考えられる点等を考慮して、受けるべき給与額の三五パーセントを控除した上、現価を計算するにつきライプニツツ式係数を用いて算出すると、次の計算式のとおりとなる。
(132,900×12+410,700)×0.65×14.9475=19,485,187(円未満切捨て)
なお、受けるべき給与額のほかに、更に家事労働分として年額六〇万円を加算すべきである旨の被控訴人の主張について考えるに、前判示のとおり、亡美由紀が専業として職に就いて受けるべき給与額を基準として得べかりし利益の額を算定する以上、亡美由紀が将来労働によつて得られるべき利益の一般的評価は既に尽くされているものというべきであり、右専業としての労働に加えて更に家事労働に従事するとしても、そのような家事労働は家庭の構成員としての仕事の分担によるものであつて、これを金銭に評価して加算すべき利益ということはできない。
なるほど、前記賃金センサスによれば、女子労働者の平均賃金と男子労働者の平均賃金との間には著しい格差のあることが明らかであるが、右格差が女子労働者が家事に従事することによつて生じたものと断ずることはできないし、右格差が不合理なものであり今後是正されるべきものであると考えられるとしても、現時点において損害額を算定するにつき考慮しなければならない程度の確実性をもつて是正されるものと予測することは困難である。要するに、男女別平均賃金の格差是正が将来実現されるべき課題であるからといつて、直ちにこの要請を女子労働者の喪失した得べかりし利益の評価に反映させることは相当でないといわざるを得ない。よつて家事労働分を加算すべきであるとの被控訴人の右主張は採用することができない。
2 原判決八枚目表二行目「八〇万円」を「六五万円」に、同表八行目「八六七万九二八三円」を「六六一万五九四三円」に改める。
二 よつて、当裁判所の右判断と結論を異にする原判決は一部不当であり、本件控訴は一部理由があるから、原判決を変更して被控訴人らの本訴請求を右認定の限度で認容し、その余の部分を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 貞家克己 川上正俊 渡邉等)